ノーベル賞 ”会社員”吉野氏

 スウェーデン王立科学アカデミーが2019年のノーベル化学賞を、リチウムイオン電池開発の旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)ら3氏に授与すると発表した(9日)。携帯型の電子機器を急速に普及させ、人類のIT(情報技術)社会・モバイル(可動性)社会発展に大きく貢献した。
 共同受賞者は米テキサス大教授のジョン・グッドイナフ氏(97)、米ニューヨーク州立大ビンガムトン校特別教授のスタンリー・ウィッティンガム氏(77)。
日本のノーベル賞受賞は2年連続で、計27人となった。

 ◆1983(昭和58)年、吉野氏はリチウムイオン電池の原型を開発した。ビデオカメラなど持ち運べる電子機器が普及し、高性能の電池が求められていた時代、研究を生活に結びつける実学だ。
 繰り返し充電できる性能を飛躍的に高めたリチウムイオン電池の登場で、その後携帯電話やノートパソコンが一気に普及、スマートフォンなど小型・高機能の電子機器を”生み出した”と言える。
 近年は人工衛星や電気自動車などにも使われ、再生可能エネルギーを有効利用する手段としても期待されている。

◆吉野氏は名誉フェローとして旭化成に在籍、いわば会社員・企業人ノーベル賞受賞者。サラリーマンで思い出すのは、田中耕一・島津製作所シニアフェローだ。2002年にソフトレーザーによる質量分析技術の開発で学士唯一のノーベル化学賞受賞者となった。
 この「フェロー」とは企業、大学、研究所、シンクタンクなどにおいて、特定の分野で極めて高い能力を持った人材に特別な待遇を与える人事制度。
 最近のノーベル賞選考は、身近な生活に直結した研究成果が重視される傾向でいいことだ。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京都大学研究所所長・教授のips細胞(人工多能性幹細胞)も然りだ。

◆北野高校、京都大学卒で阪神タイガースファンの吉野氏。自身が理事長を務めるリチウムイオン電池材料評価研究センター(大阪・池田)での記者会見にも、関西人の粋があった。
 故郷・大阪への思いを問われ「大阪人には『なんとかなるわいな』という『柔』の姿勢がある」。研究については、執念を持って挑む「剛」と時には楽観的に向き合う「柔」のバランスが大切…「私にも、そうした大阪人としての気質が表れているのでは」と笑顔。

◆受賞一夜明けの「夫妻会見」がまた素晴らしい。ノーベル賞受賞者の「夫妻会見」はいつも、最高峰の研究者の見えない人間性をあぶり出し夫婦の深みが出る。と同時に、見る者をホッとさせてくれる。
吉野氏が久美子夫人(71)とのなれ初めを聞かれ、京都大学時代の考古学サークルの交流会で出会い「追っかけというのか、私の方がのぼせ上がって」と、一目ぼれだったと明かした。
 久美子夫人は「私はサラリーマンと一緒になったつもりでしたから…こんなことならもっと何もかもしっかり、サポートすれば…」。「(吉野氏の枕に)多くの髪の毛が付着していた。あの時期は苦しく、ストレスだったのかなぁ…」。吉野氏は照れたように「やるべきことを、ちゃんとやりました」。
 2人は飾ることなく自分の言葉で話した。今回のご夫妻の会見には、ひときわ自然体を感じた。
 そして吉野氏は、若い次世代へ「挑戦心を伝えたい。失敗してもええからやろうや」。

道究めて 人類に貢献
<2019.10.16 S>